アメリカで子育てをする中で、私が何度も耳にした言葉があります。それは、親が子供に対して、”Because I said so!”というもの。意味としては、親の言うことを黙って聞け、というニュアンスですね。
例えば、子供が何かをして、親が「NO!」と叱ったとしましょう。子供は、それがどうしてNOに値するのか、理由がわからなければ、親に対して「Why?(どうして?」と聞くでしょう。しかしアメリカでは、それに対して親が逐一説明をすることは、必ずしも良しとはされていません。
私自身、育児では子供を常に対等に扱ってきました。だから、子供に「どうしてダメなの?」と聞かれれば、理由をきちんと説明してきました。しかし、そんな光景を見ていた周囲の友人からは、「子供に対していちいち説明する必要なんてないの。Because I said so! と言えばいいのよ。」と何度も私がたしなめられました。
でも理由を知りたい子供に説明しないというのは、私の中では変だと思っていたので、何度たしなめられてもスルーでしたが。
目次
1.親が子供に「Because I said so」をいう背景
親が子供に「どうして?」と聞かれたとき、説明するのが面倒だなと感じることはあると思います。私も、もちろんありました。
例えば、我が家では子供のゲームは、平日は宿題などがあるので基本的にはNG、でも金曜日と土曜日は翌日学校がないから宿題が終わってるなら夜遅くまでしてもよし、というルールにしていました。この「夜遅く」というぼんやりした線引きは、親子で誤解を生じる原因になります。

例えば金曜日の夜12時になっても、子供が大興奮でゲームに興じているとしましょう。もうそろそろ寝てほしいな、と思っている親は、「あと10分でゲームを止めて、寝なさい」というかもしれません。しかし子供は、「どうして?」とくるわけです。
親にとっては、
- 12時で遅い
- 子供が寝ないと親も心配で寝られない
- 子供が睡眠不足になると健康や成長への影響が心配
など、まぁいろいろな理由があります。しかしこれは、あくまでも親の言い分です。子供にとっては、「金曜日の夜は遅くまでゲームしても良いって言ったじゃないか!」という言い分があるわけです。だから、「どうして?」と聞いてくるわけです。
私は子供に何か言うときには、常に言われた子供の立場になって考えたうえで発言してました。夫からは「甘すぎる」と叱責されたこともありましたけれど、理不尽なNOだけは言いたくありませんでした。だから、昔も「Because I said so」と子供に対していったことは一度もありません。
2.どんな親が言う傾向にあるのか?
子供に理由を聞かれたとき、理由を言わずに「Because I said so」と言って黙らせようとするのは、権威主義的(Authoritarian)な子育てをする人に多い傾向があります。
権威主義的というのは、親は子供よりも高い位置にあり、指示を出す側でなければいけないという信念を持っている子育て方法です。親である自分の言うことは、子供にとっては絶対であり、それに対して疑問や質問を投げかけられたり、まして異議を唱えられるなんてありえない、と考えています。
金曜日のゲームの例では、親が「Because I said so」と言えば、その時点で会話は終了です。子供は「この間は、ママは金曜日は遅くまでゲームしていいって言ったのに」と不満を抱えたまま就寝することになるでしょう。
子供が受ける影響とは?
この育児方法で育てられる子供は、親が間違ったことを言っていると思っても、異議を唱えることは認められていません。「どうして?」と率直に思っても、質問できません。親の言うことは絶対であり、それが家庭のルールなのです。だから、黙って従うという選択肢しかありません。

この育児を受けて育つ子供は、世の中や集団のルールに対して従うことが、とても上手になります。黒いものを白、白いものを黒といわれても、あまり疑うことなく「リーダーがそういうのなら、そうなのです」と信じることができます。
しかしこの従順さには、リスクが伴います。それは、自尊心が育たないという点です。必ずしもそうだというわけではありませんが、自分の考えよりも組織のルールを重視するため、自分の気持ちや考えは最優先される項目にはならないわけですね。
また権威主義的に子育てをすると、子供は親に対して恐怖を感じるようになってしまいます。親が怖い、怒られるのが怖いから何も話せないと感じると、親子間の距離はどんどん離れてしまいます。
3.答え方から見るあなたの育児方法
子供から「どうして?」と聞かれたとき、どのように対応するかによって、その家庭での育児方法を垣間見ることができます。
- Authoritarian (上記した権威主義)
- Authoritative(権威と理解の両立)
- Permissive(寛容)
- Uninvolved(無関心、無関与)
権威と理解を両立(Authoritative)
このタイプは、子供に「どうして?」と聞かれたときに、言葉で理由を説明します。「Because I said so」と言って突き放すことはしません。親の中で持っている持論やルールを、子供に説明するという点が、権威主義的な育児と大きく異なります。
またこのタイプは、子供の気持ちも考慮します。そのうえで、解決策を提案したり、前向きに問題を解決しようという姿勢で子供と向き合います。
金曜日のゲームの例なら、「子供が12時を過ぎて起きていると、成長にもマイナスだし、親ももう寝たいから、あなたも寝てほしい。でもその代わり、明日の朝は早起きしてゲームすれば良いじゃない?」と打開案を提案するでしょう。そうすれば子供も、親がなぜそういうのかを理解でき、提案された打開案で手を打つのも悪くないな、と考えられます。
子供が受ける影響は?
このタイプの子育てをすると、子供自身も他人に意見をする際には、その理由や背景を言葉で説明できる能力が高くなります。また、リスク管理のスキルが高くなりやすいという研究結果もあるようです。
寛容な育児(Permissive)
このタイプは、ルールを決めても子供になかなか実践できない親が該当します。例えば「もう寝なさい」といっても、子供が「だって金曜日は遅くまでゲームしていいって言ったじゃないか!僕はまだ眠くない!」と反論してきたら、「眠くないなら仕方ないか」と折れるタイプですね。
子供が受ける影響は?
子供の自主性を大切にするといえば聞こえは良いですが、子供にとっては、親の言うことに全く権威性を感じないというデメリットが発生してしまいます。理にかなっていれば、相手が親でも自分の意見を認めてくれるという方式が、成長の過程で刷り込み式に植えつけられるため、子供は自身の考えていることを主張するスキルが身に付きます。

これは悪く言えば「子供になめられる」親となってしまう方法なのですが、必ずしもデメリットばかりとは限りません。子供にとって親は、権威のある存在ではなくなるものの、なんでも話せる兄弟や姉妹、また友人のような存在となります。お互いに信頼関係を築くことによって、上下関係ではなく対等な関係を築けるというメリットもあります。
ただし、権威に対しての免疫を持たないため、学校のルールに従ったり、先生の指導に従うことに対して、苦労するリスクは高くなるかもしれません。子供は、ルールに従うのではなく、自分に正当性があればルールに従う必要はないと覚えてしまうからです。
無関心な親もいる(Uninvolved)
親の中には、子供は経験から自主的に学ぶという育児メソッドを持つ人もいます。この場合、親が指導したり何かを強制的にさせるのではなく、子供の自主性を大切にして、良いことも悪いことも経験を通して学べばよいという考えが多いです。
無関心と無関与とは、若干の違いはあるものの、この育児方法は「Because I said so」という子育てとは対極にある方法だといえるでしょう。
- 子供が学校からの宿題をしたかを聞かないし、宿題はあるのかとも聞かない
- 子供の友達のことも、すべて本人に任せている
- 親子で過ごす時間が少ない
など、放任主義を思わせるような言動も多いです。
子供が受ける影響は?

無関与な子育ての中で育つ子供は、親は自分に興味や関心がないと感じる機会が多くなってしまいます。その結果、自信のない人間になったり、自尊心の面でもデメリットが発生するかもしれません。
また、親にルールを守れと強制されないため、いやなルールには従わないという姿勢が確立されてしまうでしょう。学校の勉強でも苦労したり、集団生活で真野るべきルールもうまく守れないという事態が起こりかねません。
4.アメリカにはどのタイプが多い?
私がアメリカで育児をしてきた中では、「Because I said so」という権威主義的な親か、子供の自主性に完全に任せて放任無関心的なUninvolvedな親が多かったような気がします。
もちろん、子供に説明して理解を求めたり、子供と友達親子の関係を築く人もいますが、私が見てきた中では、これらのタイプは日本の親子関係によくみられるような気がしました。あくまでも私の狭い世界での経験による感想ですが。