子供の頃には誰もが一度や二度、人によってはほぼ毎日という人もいるでしょうけれど、「学校に行きたくない」と思ったことがあるはずです。その理由はさまざまです。いじめや人間関係などもあれば、「学校の勉強が簡単すぎてつまらない」なんて理由もあるでしょう。
日本では、教育というと「学校に行く」「行かない」の2択しかありませんが、アメリカにはいろいろな選択肢があります。ホームスクールも、その一つです。
目次
1.ホームスクールとは?
ホームスクールとは、学校で勉強するのではなく、自宅で勉強するという教育スタイルを指します。「学校に行かずに家で勉強なんてできるわけないだろ!」というのは、私達典型的な日本人の考え方かもしれません。しかし多様性を良しとするアメリカでは、子供が学校に行かなくても、ホームスクールをすれば代替にできるという選択肢があります。
ホームスクールをしている子どもの数は、アメリカ全土で約170万人程度で、全体の3%程度です。決して多くはありませんね。このうち、圧倒的に多いのは白人世帯で、ホームスクール生徒全体の83%を占めています。日本人を含むアジア人世帯の場合には、約2%で他の人種と比較して少なめです。
誰が教えるの?
ホームスクールは、基本的に親が先生となって子供に勉強を教えます。親が自分で教科書などを選んで教えても良いですが、州ごとにホームスクール用のテキストを無償で提供してくれる制度もあったりします。
また州のカリキュラムに従ったホームスクール向けの授業を動画でやっていたり、有料でホームスクール向けの授業を動画でやっているサービスもあります。
「学校ではなく家で勉強する」場合でも、どんなカリキュラムに沿って勉強するのかという点で、たくさんの選択肢がある所が、アメリカらしいですね。
アメリカって義務教育はないの?

日本だと、小学校と中学校は義務教育と決められています。これは、「子供が教育を受ける権利」ではなく、親が子供に「教育を受けさせる義務」が法律で決められているからです。そのため、子供が勉強したくないからと言って何もしないのでは、親が法律で罰せられることになります。
アメリカの場合、州ごとに義務教育の年齢は異なります。高校までは公立の学校は無償で通えるので、高校までが義務教育だと考える人は多いですね。でも、中学校の途中で学校に行くのを辞めたとか、ハイスクールの途中で行くのを辞めたという「ドロップアウト」な状態でも、ホームスクールでカバーすることはできます。
どんな人がホームスクールに向いている?
ホームスクールという選択肢は、全ての人に与えられています。しかし、全ての家庭でホームスクールを選択することが、必ずしもベストとは限りません。ホームスクールが向いているのは、
- 親子で先生と生徒の関係になって勉強ができる人
- 教える人が昼間在宅でいられる家庭(通常は親、もしくは家庭教師など)
- 落ち着いて集中して勉強できる時間と場所と確保できる人
- 自主的かつ積極的に学びたいという気持ちがある人
- なぜホームスクールにするのか理由が明確な人
- 社交の場を家庭の外で見つけられる人
- 病気やケガなどで長期療養が必要な人
などです。
ホームスクールだった偉人

有名な話ですが、アメリカが生んだ発明王のエジソンは、学校になじむことができず、ずっとホームスクールをしていたことで知られています。彼の場合、「なぜそうなるのか」という物事のメカニズムや仕組みを知りたいという気持ちが強かったため、学校に通うと教師から「質問ばかりしてうるさい」「変わり者だ」と厄介者の扱いを受けたことがきっかけでした。
彼の母親は、そうした状況を前向きにとらえて、「行きたくないなら家で勉強すれば良い」と彼のホームスクールをサポートしたそうです。しかし当時はホームスクールのシステムやサポートなどは一切ありませんでしたから、基本的に彼は自分自身で学問を学んだのだとか。
2.ホームスクールの理由にはどんなものがある?
ホームスクールの理由は、ポジティブなものからネガティブなものまで様々です。例を挙げると、
などは、よく聞く理由です。
カリキュラムが気にいらない

私がアメリカで子育てをしてきた中では、ホームスクールを選ぶママ友も少なからずいました。その中でも最も多く耳にしたのが、この理由ですね。カリキュラムが気に入らないというのは、
- 学校のカリキュラムが簡単すぎて先が思いやられる
- 無駄な科目をやっているのが気に食わない
- 家で教えたほうが短時間で効率的に教えられる
などの理由です。例えば、将来はプロアスリートを目指す子だと、学校で1日過ごす時間がもったいないから、家でサッと勉強を短時間で片づけて、午後はずっと練習に費やしたい、という家庭もありました。
また、日本では考えられない事なのですが、学校で「進化論(Evolution)」を教えるから行かせない、という家もありました。アメリカではキリスト教徒が大半で、キリスト教においては、サルが人間に進化するなんて言語道断な話なのです。キリスト教では、アダムとイブが何もない場所に突然現れる創造論(Creation)を信じているため、それに反することを教える学校や教師はけしからん、ということなのでしょう。
アメリカでも、州や学校によっては教師が「進化論」を意図的に教えないという所もあります。しかし、学校のカリキュラムに基づいて教える場合には、その方針に反対する親が、その時だけ学校を休ませるとか、その年は学校に通わせない、なんてことも意外とあります。
先生の教え方が気に入らない
先生の教え方が気に入らないという理由で、ホームスクールを始める家庭もあります。先生の教え方が下手なのか、それとも教え方ではなくてカリキュラムが気に入らないのか、理由はいろいろあると思いますが。
先生の教え方が気に入らないことは、珍しくないと思います。息子が小学校中学年だった時の担任の先生が、教師になったばかりだったようで、「よくわからない」「知らない」が口癖でした。よく分からないという理由で、生徒に勉強を教えないのです。
それでどうするかというと、隣のクラスの先生にお願いして、クラスを丸ごと引越しさせていました。例えば、数学はAクラスと一緒にやってもらい、英語の時間はBクラスにお邪魔する、と言う感じですね。
小学校の中学年といえば、アメリカではちょうど時計の読み方を覚えたり、掛け算、割り算あたりを覚える大事な時期だったと思います。先生の意味不明な言い訳で子供が基礎を理解できなくなったら大変だと思い、我が家ではとりあえず数学に関しては、全て私が教えました。ホームスクールではありませんでしたが。
学校でいじめの被害にあっている

私はアメリカのホームスクールに関しては、あまり手放して賛成するわけではありません。しかし、この理由に関しては、ホームスクールという選択肢があることは、子供にとっては大きな救いの手になってくれると思っています。
アメリカでは、陰険ないじめは日本ほどありません。集団でいじめることに対してマイナス感情を持つ子供が多いことが、その理由だと息子は話していました。
でも、まったくないわけではなく、存在しています。あからさまないじめではなくても、気が弱い子は精神的なストレスを感じながら学校に通っている子もいます。
そうした子供にとっては、学校に行って精神的に追い詰められなくても、自宅で勉強ができて、将来は高校や大学にも進学できるのなら、それは素晴らしい選択肢だと思います。
学校でドラッグや暴力など悪い影響がある
同じ町にある学校でも、住んでいる場所によって学校の質や雰囲気はガラリと変わります。例えば、富裕層が多く住むエリアにある学校は、暴力やドラッグなどの問題は起こりづらい傾向にあります。しかし貧困層が住むエリアにある学校だと、そうした問題が起こりやすい傾向にあるのです。治安が良くない所だと、学校の入り口に金属探知機があり、生徒が銃器を持ち込まないかチェックするところもあります。また、学校の窓に鉄格子がついている所も実際にあります。
同じ町でも、大きな差がついてしまう所は、アメリカの影の部分なのかもしれませんね。
「だったら良い学校に行ける所に住めばよいのでは?」
と考える人はいるでしょう。確かに、その選択肢は理想的です。しかしそうしたエリアには、高級住宅のみで賃貸物件がないとか、富裕層でない人にとっては環境を選べないことが少なくありません。
ガラが良くない学校に通うと言っても、そこに通う生徒が全員、そうした危険因子を持っているわけではありません。そのため、運悪くそうした学校に通うことになると、親子で話し合ってホームスクールという選択をすることもあります。
3.ホームスクールのメリット
ホームスクールには、たくさんのメリットがあります。
- 基本的に親子でマンツーマンの授業となるので、短時間でも密度の濃い勉強ができる
- 子供の能力に合わせて、どんどん先にすすめる
- スポーツや音楽などに時間を使いたい人や遠征などに行く子にとっては、時間的にフレキシブルな対応がしやすい
- 周囲の生徒から悪い影響を受けずに済む
- いじめがない
- 地域によってホームスクールをサポートするグループがある
- 学校によっては体育や課外授業だけ出席というのもOK
- 宗教や価値観と教育とで干渉せずに済む
- いつからでも始められる(年初でなければいけないといったルールはない)
- 事情があって出席日数を満たせなくても留年にならない
4.ホームスクールのデメリット

ホームスクールには、メリットばかりではありません。少なからずデメリットもあります。ホームスクールを検討するなら、デメリットについても理解しておくことが大切ですね。
- 社交性が身につかない
- 他人とトラブルが起きた時の対応の仕方が分からない
- 子供の世界が家庭内だけになってしまい、視野が狭くなる
- カリキュラムや使用する教材、教え方によっては最低限の学力が身につかない
- ホームスクールでも時間割などスケジュール管理は必要
- 共働きの世帯だと難しい
- 州ごとに法律があるので従う必要がある(科目や対象年齢、親に必要な資格など)
- 一人っ子の場合には孤独感を感じやすい
などがあると思います。
5.もしこれからホームスクールをするなら知っておきたいコト
もしこれからホームスクールを使用かなと考えている家庭は、目の前のカリキュラムについて調べるだけでなく、さまざまなシチュエーションをシミュレーションした上で、賢明な選択をする必要があります。
レポートカード(成績表)は必ず作る事

ホームスクールで親が子供に勉強を教える場合、わざわざ成績表を作る必要がないと考える人は多いと思います。しかしこのレポートカードは、もし近い将来、別の学校へ通学する場合や転入する際には、提出するように求められるため、必要です。「ホームスクールだったので作っていません」と言っても認めてもらえません。
大学入学ではSATやACTは必要
ホームスクールなら、レポートカードの成績は良く、GPAも親がつけるので、4.0も十分に可能だと思います。しかし、大学入試においては、GPAだけで入学できるかどうかが決まるわけではないという点は、理解しておきましょう。難関大学になればなるほど、SATやACTのスコアはチェックされます。そして、ホームスクールでのGPAが高くても、テストのスコアが悪ければ、残念ながら不合格となってしまいます。
大学入試に必要なSATについてはこちらから
大学入試の方法についてはこちらから
Resume(履歴書)に書ける内容が必要
ホームスクールが良くも悪くもどういうものなのか、どんな影響を子供に及ぼすのかという点は、大学側は理解しています。もしも大学入試の際に提出する履歴書が、ただホームスクールをしていましたというだけだと、もしかしたら「じゃあずっと家にいただけ?」と思われて不合格リスクが高くなる可能性はあるでしょう。
ホームスクールをするのなら、勉強以外にボランティアやコミュニティ活動を積極的にするとか、どこかの団体に所属して集団での活動に精を出すなど、履歴書に書ける何かが必要不可欠です。
州によって法律がある

6.ホームスクールに優しい州はどこ?
ホームスクールに関しては、可能な子供の年齢や教えなければいけない科目、また親が持っていなければいけない資格や届出の必要性など、州ごとに条件が定められています。条件が厳しい州もあれば緩めの州もありますが、どの州がホームスクールをしようと考えている人にとってはフレンドリーなのでしょうか。
アラスカ州
親が子供に教えるなら年齢も科目も完全自由。届け出も不要。
アイダホ州
親の資格や届け出は不要。ただし子供はホームスクールを含めて16歳までは教育が必要。
インディアナ州
親の資格や届け出は不要。年間で最低180日間の授業が必要。
ミシガン州
州から提供されている9科目の必修科目はマスト。親が教える場合には資格は不要。
ミズーリ州
生徒の数は4人まで。年間の授業時間は1000時間以上であること。子供は16歳までホームスクールを含めて教育が必要。親の資格は不要。
ニュージャージー州
親の資格は不要だが、公立学校と同等のカリキュラムでなければいけない。
オクラホマ州
親の資格は不要。年間180日以上の授業をすること。学校は5歳から18歳までを対象。
テキサス州
ホームスクールは私立校の扱い。通知や親の資格は不要。カリキュラム作成は必要。必須科目には歴史と科学を含める事。
ユタ州
通知は必要。カリキュラムは州が提供するものから選択できる。