アメリカの年金制度は、ソーシャルセキュリティ(Social Security)という公的年金のほかに、職場を通して加入するリタイヤメントのプログラムがあります。日本でいうところの、厚生年金のようなものでしょうか。
この年金制度は、仕組みが分かればそれほど難しいものではありません。しかし、すべてを夫任せにしている専業主婦の人は、夫が亡くなった後に受け取れたはずの遺族年金がもらえず、怒り心頭となってしまうことがあります。
目次
1.公的年金制度ソーシャルセキュリティの仕組み
アメリカの公的な年金制度は、ソーシャルセキュリティと呼ばれています。この制度には遺族年金があり、ソーシャルセキュリティを受給していた人が亡くなると、その配偶者は故人が受け取っていた金額と同額を、遺族年金として受け取ることができます。
遺族年金を受け取れれるかどうかという点については、婚姻期間などの条件はありますが、10年以上結婚していた夫婦なら、自身に全く稼ぎがなくてソーシャルセキュリティの受給要件を満たしていなくても、配偶者の立場で受給ができます。
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2.民間の年金制度はオプションが多い

民間の年金制度にもいろいろありますが、大企業の多くは、年金制度を社員に提供しています。これはどういうものかというと、雇用期間中に毎月一定額を収め続けると、定年後には年金を受け取れるという仕組みです。加入期間、そして所得によって計算されることが多いです。
定年を迎える際には、どのような受け取り方をしたいかという点で、いくつかの選択肢が従業員へ与えられます。
- まとまった金額を一括で受け取る
- 毎月同じ金額を自身が亡くなるまで年金として受給し続けたい
- 毎月同じ金額を、自身だけでなく配偶者が亡くなるまで年金として受給し続けたい
大きく分けると、この3つがあります。企業によっては、一括受け取りという選択肢がないケースもありますが、年金(Annuity)というオプションを提供している場合には、自分が亡くなるまで受給が続くのか、それとも自分の死後も配偶者が亡くなるまで受給が続くのか(Survivors benefit)かを選べるケースがほとんどです。
3.Survivors Benefitを選ぶとどうなる?

何歳まで生きるか分からない場合、亡くなるまで年金として毎月受け取ることを希望する人は多いでしょう。我が家もそうです。
しかし、自分が死ぬまでなのか、それとも配偶者が死ぬまでなのかは、できるだけ早い段階で夫婦で話し合っておく必要があります。相手を信頼しきっていると、稼ぎがない配偶者は地獄を見ることになりかねません。
働いていた自分が死ぬまでの受給、自身より長生きする配偶者が死ぬまでの受給を比べると、毎月の受給額は10%~15%程度変わります。そう、減ります。だから人によっては、配偶者のための遺族年金は付けずに、その代わり多めの金額を自分の生きている時にもらおうと考える人がいるのです。
例えば「自身が亡くなるまで」を選択すれば毎月$3,000受給できる人がいたとしましょう。自分の死後に残される配偶者の面倒を見ようとすると、毎月の受給額は10%~15%下がるため、$300~$450程度少なくなります。
それだけではありません。仮にそのオプションを選んでも、自身の死後に配偶者が同額を受給できるというわけではなく、多くの場合には、自身が受給していた金額の約半額程度となります。
つまりこの場合には、毎月$3,000もらえるはずの受給額が、遺族年金にすると受給額が減って$2,500程度となってしまい、自身の死後に配偶者が受け取れる額は$1,300程度になるというわけです。
この差をどう受け止めるかは、世帯ごとに様々だと思います。
4.自分勝手な男が多くて制度がチェンジ

もしも妻が専業主婦だとしたら、妻にとっては年金に関してもすべて夫頼りとなります。妻が稼いで夫が専業主夫の家庭なら、立場は逆ですね。
「きっと夫がきちんとしてくれているだろう」と思っていても、夫がSurvivors Benefitを選択しなかった場合、夫が亡くなると妻の手元に入ってくるのは、公的年金以外はゼロです。
「あのクソ野郎!死んでからとうとう本性を見せやがったな!」
と憤っても、後の祭りです。
私の知り合いでも、そういう方がいました。夫が亡くなってから遺族年金が入ってこなくなり、公的年金だけを月に800ドル程度受給している、とその女性はおっしゃっていました。ちなみに、公的年金は、遺族年金をつけないという選択肢はありません。そのおかげで、彼女は800ドルを受給できているのです。もしも公的年金に遺族年金を付けないという選択肢があったとしたら、彼女の亡くなった旦那様はおそらく、「つけない」を選択していたかもしれません。そうしたら、彼女は高齢で無収入、路頭に迷うことになります。
体は健康でまだまだ元気な方でしたけれど、生活ができないため、泣く泣く子供の家に同居させてもらっているそうです。子供がいただけラッキーでした。そして、子供が受け入れてくれたこともまた、ラッキーだったと思います。
ちなみに、こういう人は、決して少数派ではありません。「自分が稼いだ金なのだから、自分でどう使おうと勝手だろ!」という考え方の人が少し前のアメリカにはとても多かったらしく、そのせいで路頭に迷う未亡人が多発してしまったのです。
そのために現在では、Survivors Benefitを選択しない場合には、配偶者の署名捺印だけでなく、公証人の元で公証してもらうという面倒な手続きが必要となりました。